やさしい胃ろうの食生活

やさしい胃ろうのススメ

胃ろうの交換動画

胃ろうのある生活

胃ろうの食卓

内視鏡の活用

シンプル&リッチケア

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「食」について考えてみよう 〜その、エンターテイメントのもの〜

食べることは人生そのもの

美味しい食事は、食べているその瞬間の幸せとともに、美味しかった味がその幸せな状況と一緒になって記憶されます。食事がおいしいというのは、その味だけでなく見た目、香りなどに加えて、どこで食べているか、だれと食べているかなどの環境が大切なのは異論ないでしょう。

ところで胃ろうという栄養療法をご存じでしょうか。またどのように認識されているでしょうか?経口的摂食嚥下が困難になったときに、経腹的に造設した胃につながる小さな孔(胃ろう)を介して栄養を確保する医療措置のことですが、この客観的表現を主観的に言い換えると、「自分で食べられなくなったら、胃ろうから栄養剤を注入される」という医療(強制栄養法)です。

治療としての処置のこともありますが、多くは生命維持に必要な栄養確保の措置になります。2000年代に入り日本でも普及が進み、ついには20万人とも40万人ともいわれる人数の方が胃ろうを利用する状況になりました。この急激な増加に胃ろう=延命処置という認識も広がりました。

何のために食べる?

ホームページ「やさしい胃瘻の食生活」

食事は「生き延びるため」であると同時に、「生きていることを実感する」行為です。延命とQOL(生活の質)はいずれも医療のゴールですが、客観的にQOLを評価したり達成したりすることは難しく、延命という視点にいきがちです。でも我が身で考えれば、「生きている」ことは「楽しい人生」を得るために必要なこと、だから「食べたい」。食べることが心身(食べる楽しみを味わい、栄養を摂って体調を良くする)を等しく満たすのです。「胃ろうから栄養剤を注入」で「食べる」といえるのか?食べる行為のプロセスや意味を考えながら、胃ろうであっても食べることを味わうことができるはずと信じて、「やさしい胃ろうの食生活~楽しい食生活を送るための胃ろうケア応援サイト(以下、「応援サイト」)http://irou-de-taberu.com/」というホームページを公開しています。

胃ろうと食事

お酒が好きな人、スイーツが好きな人、ラーメンが何よりも好きな人、やっぱり食べる(飲む)ことは栄養目的だけではありません。もちろん偏り過ぎてはいけないですが、すべてダメというのでは食欲など湧かなくなります。

胃ろうはお腹に、胃まで通した専用の管(胃ろうカテーテル)を装着し、通常専用の栄養剤を決められた方法で注入して行われます。様々な会社から様々な栄養剤が市販されていますが、いずれも見た目は薄茶色いドロドロした、甘ったるいにおいのするものです。医学としての栄養療法はかなり確立しているので、これで何年も生きていくことは問題ありません。でもこれを365日三度三度「注入」しても食べているという意識は生まれないでしょう。実際ケアに携わる介護者にとって栄養剤という「薬」を、医師の指示通りに投与していると感じています。以前は家族の食卓を見せるのは申し訳ないからといって食事時間は別の部屋で胃ろうから注入し、家族の食事とは分けていたという事例も多く聞かれました。

胃ろうの食卓

一人ぼっちの食事ほど味わいの無いものはありません。食卓は囲んでこそ、だから口から食べる人も胃ろうから食べる人も一緒に食べる環境が第一歩。そして胃ろうカテーテルや接続チューブ、滴下バッグなどは医療器具ではなく、「食器」です。これらはある程度選択できますし、食器ですから食べたらきれいに洗うのも当然です。(具体的な解説は前述HP「シンプル&リッチケア」を覗いてみてください)

そして何を食べるか?栄養維持という目的は市販ないし処方されている専用の栄養剤に基本的には任せるとして、心身への付加価値を得るためにはちょっとした手問、ちょっとした意識改革があれば愉しい食卓が広がります。手間…胃ろうの場合比較的細い管を通して食事を摂る(注入)ため、固形物はミキサーなどで砕かなければなりません。砕く按配や水分、油分のバランスには少しばかりの慣れと手聞が必要です。でもこれを惜しまなければ、みんなと同じ料理(ミキサー食になりますが、それぞれの料理はそれぞれ味わいましょう)が楽しめます。そして栄養剤に代えてミキサー食にすると身体の変化は?

便が固くなった、皮虜の力サカサが減った、ロを動かすようになった、よく笑うようになった、便量が増えた、毛髪が黒くなり抜けにくくなった。爪が強くなりつやが出た。などなど。(実はこれは神奈川県こども医療センター栄養サポートチームの成果で、公開されています。http://kcmc.kanagawa-pho.jp/department/nst.html)ミキサー食の詳細な作り方のみならず、見るからに美味しそうなレシピが写真とともに掲載されています、ぜひ一度ご覧ください。)

胃ろうの子供たちの実際の変化をみましたが、大人も同様です。
意識改革…口から食べなければ食べたとはいわない、味もしないんだし?ちょっと待って。咀嚼して嚥下するのは食べる一部分の行為にすぎず、食事を味わうのは味覚・香り・見た目・温度など五感を使って感じるものです。もし味覚が欠けたとしても、見て楽しみ・香りを感じて・満腹になる、ことだって食べる行為。

例えば味噌ラーメンをリクエストした彼に、違うラーメンを胃ろうからミキサーして注入すると、これじゃないと意思表示します。「ケンタッキーフライドチキン」をリクエス卜されたら、やっぱり「本物」を買ってこないとだめです。胃に入ったあとの上がってくる匂いでばれてしまいます。ティータイムには香りづけのお酒を自ら選んでティーロワイヤルを愉しむ彼女も…

胃ろうで晩酌(日本酒にとろみをつけて注入)

これらは実例です。胃ろうになったら一切口から食べてはいけないわけではありません。多くの場合栄養状態が維持されていれば、嚥下訓練などを経て部分的な経口摂取も可能になり得ます。そうしたらお楽しみを考えてみませんか、ほら味覚でも味わうこともできます。
応援サイトでは胃ろうで晩酌する方を動画で紹介しています。ほかにも日常的にケーキなどのデザートや、外出時はお店自慢の料理などを、介護者と一緒に楽しむ光景も紹介しています。

スマイルケア食

経管栄養(胃ろう)とは少しずれますが、高齢化(含む障がい者)が進む中で様々な介護ケア食が市販されています。これらを整理・分類して適切に利用できるように、農林水産省から2014年秋に「スマイルケア食」という新しい枠組みが公表されました。介護食品を低栄養の予防・噛むことが難しい・飲み込むことが難しいの3つのカテゴリーとし、さらに咀嚼・嚥下困難食にはそれぞれ4段階・3段階に分けられ、それぞれにマークと数字による表記により機能と目的を明瞭にしました。ここで重要なのは、栄養状態の改善やQOLの向上だけでなく、おいしさ、見た目の美しさ、食べる楽しみや入手のしやすさなども考慮されていて、食品を単なる栄養剤と捉えるのでなく、食欲がそそる食べ物としていることです。

胃ろうは小手術(内視鏡で行う手術)で胃ろうカテーテルを設置します。このカテーテルにはいくつかの種類がありますが、いずれも定期的に交換する必要があります。そしてこれは医師によって行われなければならないため、胃ろう自体は治療行為でないにもかかわらず、胃ろうを介した栄養管理全体が医療行為のような印象を受け、本人や介護者の自由がないように思われがちです。しかし胃ろうは心身のケアに関わるすべての人がその意義を知り、上手く利用するものです。本人から見れば快適であることが最も重要ですし、介護者にとっては不安がない、安心が出来ることで、医療職からみれば安全であることが大切です。苦痛がなく、その人の状況に合わせた使いやすい胃ろうカテーテルを選択したいですし(チューブ式かボタン式かだけでなく、太さや使い勝手、不具合の少ない製品、交換時できるだけ痛くない製品など選択の幅があります)、栄養管理だけでなく器材の管理や不具合もすぐ相談できる医療者のサポート環境の構築(胃ろうの専門学会であるPEG・在宅医療学会には医療従事者に対する資格認定制度があり、公開されています。(http://www.heq.jp/qualification.html

さらに自分で食べることを取り戻すための支援(摂食嚥下の検査やリハビリを受けられる全国の医療機関などの情報「摂食嚥下関連医療資源マップ」(http://www.swallowing.link/ よりリンク)など、医療者との安全と信頼を得るためのインフラも少しずつ構築されつつあります。

やさしい胃ろうの実践

胃ろうは小手術(内視鏡で行う手術)で胃ろうカテーテルを設置します。このカテーテルにはいくつかの種類がありますが、いずれも定期的に交換する必要があります。そしてこれは医師によって行われなければならないため、胃ろう自体は治療行為でないにもかかわらず、胃ろうを介した栄養管理全体が医療行為のような印象を受け、本人や介護者の自由がないように思われがちです。しかし胃ろうは心身のケアに関わるすべての人がその意義を知り、上手く利用するものです。

本人から見れば快適であることが最も重要ですし、介護者にとっては不安がない、安心が出来ることで、医療職からみれば安全であることが大切です。苦痛がなく、その人の状況に合わせた使いやすい胃ろうカテーテルを選択したいですし(チューブ式かボタン式かだけでなく、太さや使い勝手、不具合の少ない製品、交換時できるだけ痛くない製品など選択の幅があります)、栄養管理だけでなく器材の管理や不具合もすぐ相談できる医療者のサポート環境の構築(胃ろうの専門学会であるPEG・在宅医療学会には医療従事者に対する資格認定制度があり、公開されています。(http://www.heq.jp/qualification.html

さらに自分で食べることを取り戻すための支援(摂食嚥下の検査やリハビリを受けられる全国の医療機関などの情報「摂食嚥下関連医療資源マップ」(http://www.swallowing.link/ よりリンク)など、医療者との安全と信頼を得るためのインフラも少しずつ構築されつつあります。

いっしょにたのしむ

PEG・在宅医療学会学術集会での発表風景

胃ろうの食事のように介助・介護を要することが多い場合、ともすると胃ろう者目線ないし介護者目線の一方からの見方・考え方になりがちです。でも食事は相手が楽しくなければ自分も愉しくありません。その逆も同じ。一緒に楽しんでこそ美味しい食事時間になります。介助介護ではなく、世話を焼いているだけ。この実践をPEG・在宅医療学会学術集会(2016年に高松市で開催)で「胃ろう利用者と一緒に外食を楽しむ(発表時は「胃ろう利用者と一緒に食事を楽しむ」に改題)」と題して、日々実践している施設(障害者支援施設リエゾン笠間:横浜市)の生活支援員自身により発表しましたが、会場の共感・賛同を多くいただきました。(プログラムhttp://www.heq.jp/images/pdf/prog21.pdf 発表内容にご興味ある方はご連絡ください)

リエゾン笠間 利用者の皆さん

人と人のふれあいこそ「生きる」ということ、もし障がいと世話がその問に割って入ったら、きっともっと生きることを「共有」できるのではないでしょうか。

掲載元:社会福祉法人 鉄道身障者福祉協会発行
「リハビリテーション 第600号」